「中小企業金融円滑化法は平成25年3月で打ち切り確実! 中小企業金融円滑化法の今を展望する」

中小企業の金融機関への返済条件を緩和する措置を規定しているのが、「中小企業金融円滑化法」です。
中小企業金融円滑化法の正式名称は、「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」で、2009年秋の政権交代を期に、金融担当大臣に就任した国民新党代表(当時)の亀井静香氏の鶴の一声で立法化されたものです。
中小企業金融円滑化法は、平成21年11月30日、国会で可決・成立しました。
政権交代からわずか2ヶ月強というタイトなスケジュールで成立した法律で、まさに、「政治主導」の象徴的な法律だと言うことが出来ます。
中小企業金融円滑化法の趣旨は、厳しい状況にある中小・零細企業の事業者や、住宅ローンの借り手を支援するため、貸付条件の変更に極力努めるよう、金融機関に要請している法律です。
当初、中小企業金融円滑化法は平成23年3月末までの時限立法でしたが、期限が二度に渡って延長され、現状の中小企業金融円滑化法の期限は、平成25年3月末となっています。

中小企業金融円滑化法のこれまでの運用状況について見てみることにします。
金融庁によれば、法律施行日から平成23年12月末までの中小企業者に対する返済条件変更の実行件数は延べ151万6,924件に達し、審査中の案件を除いた実行率は実に97.1%にも達しています。粉飾決算をしていたり、反社会的な会社であったり、高利金融をつまんでいるようなケースを除けば、中小企業者が金融機関に返済条件の緩和をお願いしたら、おしなべて金融機関が返済猶予に応じているというのが現状です。
返済条件の緩和で最も多いケースが元本の返済猶予で、返済猶予実行後1年間に渡って、利払いのみとするケースが多数を占めています。
他方、金融機関の側では、中小企業金融円滑化法施行前であれば、返済条件の緩和に応じた時点で、当該融資先の債務者区分を要管理先以下に引き下げる必要があり、事実上の不良債権となってしまっていました。
このため、中小企業金融円滑化法施行前の金融機関は返済条件の緩和には慎重でした。
ところが、中小企業金融円滑化法の施行によって、「実抜計画」(実現可能性の高い抜本的な経営再建計画)もしくは、実抜を簡略化した「合実計画」(合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画)を中小企業者が策定し、金融機関が支援を前提としていくことへの中小企業者と金融機関との合意があれば、債務者区分を要注意先に据え置いても良い(つまりは、不良債権にしなくても良い)ということになったのです。
実抜計画、合実計画の期間は最長10年間で、計画の終了時点で債務者区分が正常先(合実計画先は要注意でも可)となる見込みがある(「実質債務超過」を解消する)ことが要件です。

長らく続く資産デフレの影響から、多くの中小企業者の貸借対照表上の資産の一部が劣化しています。
バブル期に購入した土地やゴルフ会員権や株式等の有価証券の「時価」は、簿価を大きく割り込んでしまっています。
1年以上に渡って計上されたままの売掛金は、回収の見込みが乏しくなっています。
過剰な在庫の一部は不良在庫と化しています。
社長向けの貸付金、未収金、仮払金は、余程の個人資産が無い限り、回収見込みがありません。
のれん代や創業費といった繰延資産にも資産性は認められにくくなります。
このような中小企業者の資産が内包する含み損が税務申告上の株主資本を上回ってしまえば、金融機関は「実質債務超過」と見做してしまいかねません。
中小企業者は、最長10年間で実質債務超過を解消し、金融機関からの借入金とリース等設備債務を合わせた要償還債務の債務償還年数を明らかにする「工程表」を、実抜計画の中で示し、計画を実行に移していかねばならないのです。

中小企業金融円滑化法の運用に当たっては、実抜計画、合実計画の策定は必須となっています。
中小企業金融円滑化法の打ち切りまで半年を切った今、返済条件を緩和してもらったか否かを問わず、中小企業者が喫緊に取り組まなければならないことが、実抜計画、合実計画を策定して、金融機関との協調体制と信頼関係をより高めておくことです。
金融機関が実効性の高い実抜計画が策定できない融資先で、継続的な支援は不可能だと判断してしまえば、債務者区分をその他要注意先から要管理先、もしくは破綻懸念先に引き下げてしまい、不良債権にしてしまう可能性が高まります。
金融機関は、要管理先以下に債務者区分を引き下げた融資先に対しては、貸倒引当金を積み、取組スタンスを「撤退・回収」としてしまいます。
不良債権とされてしまえば、追加の融資への望みは絶たれてしまうため、中小企業者は、バルクセールや信用保証協会への代位弁済といった私的整理を目指すか、民事再生法による法的整理を検討する必要が出てきます。
事業継続を断念するとなれば、破産法による精算も視野に入れざるを得なくなります。

次世代に残すことの出来る中小企業を創造するためにも、より実効性の高い実抜計画を策定し、金融機関との信頼関係を強めながら、実抜計画を実践していくことこそが、今、中小企業者に求められていることなのです。

【 この記事の専門家 】北出経営事務所 北出典雅